海の祭レポート
オンライン 開催日:2020年9月~10月
コロナ禍でもできる祭りのサポートは何か。2020年度「海の祭ism」プロジェクトが考え続けたテーマです。祭りの担い手のサポートとして、試験的に開催したのがマツリズム・スクール オンライン2020「祭り広報講座」です。急速に普及したWeb会議ツールを使って、祭りの情報発信をしたい担い手にむけて、その方法を、3回にわたってレクチャーするもの。講師として、マツリズム代表の大原学、ライター・編集者の大石始さん、JAZYブランディングのアートディレクター山田隼人さん、講座全体の設計を祭り研究者・ライターの西嶋一泰が担当しました。
祭りが中止になっている今、なぜ「広報講座」なのでしょうか。各地の祭りを調査していると、ウェブサイトやパンフレットが全然ない祭りや、すごく豪華なサイトがあるものの近年の更新が全くされていない祭りをよく目にします。これは対外的な祭りの広報の多くは、祭りに補助金や行政の予算などがついた際に、業者に丸投げしてつくってもらうことが多くあり、予算が切れたら、更新もできなくなる。そもそも祭りに広報の予算がつかない。そんな現状がありました。一方で、外部に丸投げをしたり、テレビや新聞で報道されたり、普段祭りに関わっていない人たちによる広報は、必ずしも担い手の意に沿ったものばかりではありません。時に誤解や誤ったイメージを生んでしまうのです。
そんな課題に対し、Webサイト、パンフレット、映像といったものは、今、ちょっとした知識があれば廉価に、もしくは無料で制作できてしまいます。担い手の方々もSNSの運用は少しずつ自分たちで始めています。私たちは「広報も祭りの一部」ととらえ、自分たちの手による発信を強化するお手伝いとしての広報講座を企画したのです。祭りでは、神社や街並みの飾りつけや、祭りの出し物といった様々なものがDIYで作られます。広報も同じように、自分たちでやってみませんか?というチャレンジングな企画でした。
祭り広報講座のスライドより抜粋
祭りの支援やサポートという側面もあります。東日本大震災で被害にあった三陸沿岸の祭りや民俗芸能。本来は豊かに数多く祭りがある地域だったのですが、存在の把握や活動の現状を掴むことは難しく、支援に時間がかかりました。一方で、発信力のある祭りや地域は、独自にSNSで支援を募り、クラウドファンディングに挑戦し、危機の状況下でも生き残る道を模索していくことができたのです。
また一方で、広報は外部への情報発信というイメージが強いですが、内部、つまり地元に対しての発信のほうが実は緊急性が高く、ニーズも高いのです。担い手不足が各地で叫ばれていますが、地域の移住者や新住民は祭りへのアクセス方法を知らず、担い手にカウントされていない場合も多く見受けられます。地域外にいる出身者や外孫も同じ状況で、情報にしっかりアクセスでき、地域の祭りに参加する門戸が開かれていれば、関係人口として祭りを部分的に担えるかもしれません。この祭りは、いつから準備して、誰が入ってよくて、何が面白いのか。担い手目線で、発信していくことで、祭りの課題にアプローチできるかもしれない。そんな、想いを持って、広報講座を開催しました。
オンラインで担い手同士が経験や想いを共有できる場に
祭り広報講座は、受講者6名(マツリズムスタッフの参加含む)で試験開催。全3回で、パンフレットをつくることが目標です。
第1回は、西嶋による「祭りの広報とは」。前述のような祭りにおける広報の価値を改めて伝えた講義パートの後、後半はワークショップ形式で行いました。2人1組になり、互いの祭りについてインタビューを行って、後で全体で取材した相手の祭りの紹介をするというもの。いわゆる他己紹介を、取材を通じて行いました。限られた時間での取材のなかで、相手の祭りの基本情報や、見どころ、想いを聞き出すのはなかなか大変ではありましたが、祭りのエッセンスを抜き出すいい経験になりました。そして何より受講生同士が、互いの祭りのことや、今の課題を共有することで祭りについて考える場ともなりました。ワークショップに限らず、全3回を通じてZOOMの機能で、部屋を分けて少人数で話しやすくするブレイクアウトルームを用いて感想や意見の共有時間をたっぷりとっていったことは、今回の講座の大きな特徴となりました。
第2回は、JAZYブランディングのアートディレクター山田隼人さんによるデザインについての講義。山田さんには、そもそもデザインとは何かという話から、今回の広報講座で制作するパンフレットの雛形のデザインを例に、その意図や機能についてお聞きしました。「お弁当の法則」として、一番伝えたいものをしっかりメインに据える。幕内弁当ではコンセプトが見えづらい。作り手が作りたいものではなく、お弁当を実際に食べる人(=読者)のためにデザインする、その手法をご紹介いただきました。後半のワークショップでは、パンフレットの雛形をさわりながら、制作作業を進めていきました。
第3回は、編集者・ライターの大石始さん。世界各地の音楽に造形が深く、近年は日本のネイティブミュージックとしての「盆踊り」を掘り下げ、近著には『盆踊りの戦後史』(筑摩選書、2020年)がある、祭り取材のプロです。大石さんには、担い手だから表現できる、祭りに対する想いやこだわりの部分についてお話いただきました。大石さんも祭りを取材するなかで、初めてその祭りを訪れる自分より、地域で長年祭りに関わってこられた方が直接祭りについて書いたりしてもらえないだろうか、それを読んでみたい、という問題意識をもたれていました。今回の広報講座にも大きな意味を感じていただき、講座の設計や各回にも参加いただいていました。参加者からの質問に答えていただくなど、豊富なフィードバックをいただきました。
広報講座の様子
広報講座の事後アンケートから参加者の声を少しだけご紹介します。
「自分たちの祭りのパンフレットを作ることで、祭りの魅力の再確認でき、多くの人に見てもらいたいとの思いが強くなった」
「講座の内容は伝わるようにするためには何が必要かがわかりとても面白いです。私の仕事にも役に立つ内容です」
「自分たちの祭りをどう伝えるか、受け取る側は何を知りたいのか、広報のあり方を深く知ることができた」
「講師と生徒だけでなく生徒間でもコミュニケーションとれるのは横のつながりもできるのでとても良いと思いました」
担い手同士の交流や、今後の広報に役立つインプットが数多く設計できた広報講座でしたが、一方で課題もありました。受講生たちが、目標としていたパンフレットを完成しきるところまでできなかったのです。フォローアップの機会も多数用意していましたが、ある程度文量のあるパンフレットを1人で書き切るのは難しかったことと、祭りのオフィシャルなパンフレットをつくるとなると、各種確認作業が非常に増え、記述も気を遣うことになるという、ハードルの高さが原因でした。講座の満足度は総じて高かったものの、制作物に対するハードルの高さは改善していくことが必要です。
ZOOMを利用したオンラインでの講座の開催も、そのハードルはやはり高かったです。自宅のパソコンから安定的に毎回参加できる祭りの担い手というと、どうしても限られます。また、ある程度面識がある状態でなければ、安心して参加ができないということもあったでしょう。
ただ、一方で場として動き始めれば、その価値は大いにあります。祭りの課題についてそれぞれの解決策やアプローチ法をしったり、自分たちの祭りを見直すきっかけにもなります。地域ではなかなか、自分たちの祭りについて改めて話して、想いを語る場が意外と少なかったりするのです。マツリズムでは、今後も「マツリズムスクール」として担い手の方々が明日の祭りを担うのに役立つ場づくりに取り組んでいきたいと思っています。
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